★月刊・沈黙の兵器 第00009号 '05/10/31 ★

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この土日、久しぶりに学会講演に参加して、外人さんの英語の講演を長時間聴いたり、筆者も自らの研究を学者さんたちの前で発表してきました。実は筆者の専門は「情報工学」ということになっており、今回の学会は、バイオと医学と情報の研究者の研究交流の場のような位置づけのところなのです。単純にいうと、医療分野へのIT技術応用が目的です。
 ちなみに、このメルマガでも医療分野はテーマとして登場予定なのですが、筆者は現代医学にかなり批判的な立場です。(でも批判的だからといって、その分野の方々との交流は別問題で、むしろ積極的に交流していきたいと考えてます)。
 今回のテーマである「耕さない農法」(ある意味「バイオ」ですね)を知れば、なぜ筆者が現代医学に批判的かということを、きっとご理解いただけるかもしれません。

■■■ 耕さない農法(1) ■■■

耕さない農法……、本メルマガでは前号までマクロ経済や政治関連をテーマにしてきたのに、なぜ一見無関係の農業の話になるのかと戸惑われる方もいるかもしれませんが、ことの深層において、これらは密接に関係しているのです。(その関連性については、だいぶ後のテーマになるかもしれません)

★★ 耕さない農法とは何か ★★

前号の予告編で述べたように、耕さない農法とは、
 ●文字通り土地を耕さない。不耕起農法ともいう。
 ●有機肥料を含めて肥料もやらず、除草も最小限でほとんど不要である。もちろん農薬なんて使用しない。
 ●しかも収穫量は、むしろ通常農法より多いくらいである。病気にはならないし、台風や冷害にもめっぽう強い
 こんな良いことだらけの農法は、40年くらい前に提唱された。現在では全国でおよそ2千軒弱の農家が実践している。(…なかなか普及しません)
  まず本誌第0号に掲載した写真を、再度見ていただこう:

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右の稲が不耕起農法の稲。
耕さずに、無肥料・無除草。
左の現代農法の稲と品種 は同じだが、野生化して、根が体積比10倍にもなる。
   
右上が不耕起農法の田圃。
耕さずに、無肥料・無除草。
台風のため倒伏した左下の現代農法の田圃と対照的。
病気や冷害にも極めて強い。
 

稲が野生化すると「あおあおしく」なる。写真左だけを見せた某酒造会社の会長曰く、「稲は黄金色でなければダメだ」……先入観とは怖いものである。もちろん不耕起のお米も、実である穂の方は写真右のように黄金色です。
 次に、夏の田圃がどうなっているかの写真を見ていただこう:

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「昔の田圃はこんな感じだったなぁ」と思われるかもしれないが、昔の田圃は耕していました。有史始まって以来、人類は耕してきたのです。
 これは不耕起農法の田圃ですから、ビミョーに少し違うのです。
 例えば写真左にあるサヤミドロですが、これは耕かさないからこそ残っている去年の稲株に、絡まるように水底に生育する(水面に生育する藻はダメ)。このサヤミドロこそが、田圃の水に酸素を供給して、プランクトンを増やし、小動物の天国となる≪食物連鎖≫の出発点となるのである。
 ちなみに写真右のタニシがあまりにも多いので、「えっ、稲に悪いんじゃないの?」と言う人がいる。どうして?って逆にきくと、「稲を食べるらしいよ」とのこと。へーぇ初めて知った、不耕起の田圃には食べるものがいっぱいあるから、タニシは稲を食べなくてもよいのでしょう。
 よくある質問に「味は美味しいの?」がある。それに答えて筆者は、インスタントラーメンやマクドだって美味しいという人がいるのですから、味は主観的なものですので、食べてご判断ください、と言うことにしている。実際そうなのだ。
 あるとき、筆者の叔父にこの耕さない農法のことを言ったら、「耕さないなんてあり得ない。それはインチキ農法だ」、とまでのたまった。原理を説明したりビデオを見せたりするまで、なかなか信用してもらえませんでした。でも叔父だからストレートに「インチキ農法」と発言できたのであって、普通はそんな風に思われているのかなぁ、と考えてしまいました。

★★ 不耕起農法の原理 ★★

ここに自然豊かな森があるとする。もしこの森を耕したら森はどうなるだろうか? もしこの森に肥料を撒いたら、森はどうなるだろうか?
 きっと豊かだった自然はオカシクなっていくだろう。
 不耕起農法の原理は、自然と融合する「自然農法」であり、農作物の野生化である。
 ……というと哲学的で難解にきこえるが、つまり「耕す」こと自体に、自然からみれば大きな欠点があったのである。(それを人類は有史以来気付かずに耕してきた)

「耕す」ことの欠点とは:
 ■1)耕せば、地表の有機物が土中に鋤き込まれ、夏が来て温度が上るとそれらが土中で分解される。するとメタンガス等の有毒ガスが発生する(通常農法の田圃でよく見られるプクプクッとした泡がそれ)。このため稲が根腐れを起こしてしまうのである。よって病気にもなりやすくなる。
 ■2)耕すことで土が軟らかくなり、根が張りやすいように一見思えるが、やがて「ぐーたら現象」(後述)が起こってしまう。(肥料を与えることも同様に「ぐーたら現象」を発生させると考えられる)
 ■3)深く耕すと、地表から10〜15cm以下に生息する嫌気性菌が打撃を受け、硬い「耕盤」」という壁が形成され、土中細菌の共生関係を破壊する。

不耕起のメリットは、こうした耕すことによる欠点の逆であると思えば分かりやすい。
 不耕起農法と通常農法との比較図を次に示します:

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しかし、■1)のように、根腐れを起こして作物に害を与えるような「耕す」という行為を、わざわざ苦労して行なってきた人間の愚かさは、どのように形容していいのか悩んでしまう。サルが犯すような軽薄な行為を「サル知恵」というが、人間とはサルに毛が生えたというか、いやサルの毛が抜けた程度の存在なのかと改めて考えさせられる。
 次のサル知恵の■2)であるが、ぐーたら現象と名付けた。例えば、
 ・糖尿病患者にインスリン注射をすれば劇的に改善するが、やがて患者のすい臓はぐーたら現象を起こしてますます自らインスリンを製造しなくなり、長期的にみれば糖尿病はますます悪化する。
…などは良い例だ。他にも、
 ・バリアフリーで段差の無い家に住むお年寄りの屋外での転倒事故は、そうでない家に住むお年寄りよりも増加した。
 ・宝くじ1億円以上を当選した百名ほどの10年後を追跡調査したところ、なんと9割の人は当選前より年収が落ちていた。
…など枚挙にいとまがない。本誌第6号でアメリカが戦後日本の繁栄を許した真の意図を書いたが、このぐーたら現象を利用したものである。トマトも、水の少ない土地でこそみずみずしいトマトができるのに、下手に甘やかして水をあげるとうまくできないものである。つまり稲は、不耕起のような固い土地に適した種であったのではないだろうか。
 サル知恵の結果■3)の土中細菌の共生関係の破壊であるが、これについては現段階で筆者はそのメカニズムをうまく具体的に説明できない。もっと勉強してからご報告することにしたい。

「耕す」ことのメリットも、ないわけではない。
 ●1)雑草が生い茂っている土地を耕地にするには、少なくとも最初は「根こそぎ」その雑草を除去しないと転用しにくい。その方法として「耕す」ことは簡単であり有効でもあった。
 ●2)耕すことで出来る「耕盤」によって、田圃に張った水が地中にしみ込み難く、水の節約が可能である。用水にこと欠く地域では有効であったのかもしれない。
 ●3)耕せば、まずは毎回除草できるので、篤農家と思われるし、自分自身でもなにか安心しておられる。
 ●4)為政者にとって、不耕起で百姓の時間が余るよりも、耕す時間にとられている方が都合が良い。

しかしこれらのメリットは、●1)を除いてあまり積極的なものとは筆者には思えない。
 以上、耕すことの欠点のウラ返しとして、不耕起のメリットを述べました。次号は、メリットを更に考察するだけでなく、不耕起農法の「欠点」や、実現するためのノウハウも話題にする予定です。

最後に、不耕起農法に関するビデオを見たい方は、次のURLをクリックしてください。
http://www.ark-kyoto.org/sandai/video/untilled.wmv
(ブロードバンド環境が必要です)

★★ おわりに ★★

前号までのような政治経済の話題は「おどろおどろしい現実」をどうしても書かねばならず、書く方も読む方も気持ちが沈みがちだったと思いますが、農業の話題は比較的当たり障りが少なくて気が楽でした。とは言え、ついつい「戦後日本の繁栄を許したアメリカの真意」とか、「為政者はお百姓さんの時間が余らない方が都合良い」とか、政治的話題に絡めてしまって、少し反省です。
 次号は不耕起農法の「欠点」も書く予定ですが、どんな欠点か想像しておいてくださいね?


「月刊・沈黙の兵器」
★まぐまぐ!サイト:  http://www.mag2.com/m/0000150947.html
■次号の予定:「耕さない農法(2)」

/E